ニセ警察詐欺に注意:偽の警察官を名乗る電話の手口と見分け方

平日の午後2時。68歳の田中さん(仮名)の自宅の固定電話が鳴った。受話器の向こうは、落ち着いた低い声だった。「こちら、○○警察署生活安全課の者です。田中さんの銀行口座が詐欺グループに悪用されていることが分かりました。このままでは、あなたも共犯として逮捕される可能性があります」。田中さんは頭が真っ白になった。「逮捕状も出ています」と言われ、ビデオ通話に切り替えるよう指示された。画面に現れたのは、制服姿の男と、自分の名前が書かれた「逮捕状」のような書類だった。

その後の展開は、いつも同じパターンだ。「身の潔白を証明するため、資産をいったん保全する必要がある」「捜査が終わるまで誰にも言わないでください」。田中さんは言われるがままに銀行へ向かい、指定された口座に300万円を振り込んだ。電話が切れたのは、入金の確認が取れた直後だった。もう一度かけ直しても、その番号はつながらなかった。

これはニセ警察詐欺だ。警察官を名乗る犯人が「逮捕状が出ている」「口座が犯罪に使われている」と不安をあおり、送金や金地金の受け渡しを迫る手口で、警察庁が2026年から独立した手口として集計を始めたほどの深刻な犯罪になっている。2026年10月2日に公表された警察庁の暫定値によると、同年1〜8月のニセ警察詐欺の認知件数は6,346件、被害額は728.6億円。件数は前年同期より4.1%減ったのに、被害額は27.0%も増えた。つまり、狙われる人は少し減ったが、1人あたりの被害は確実に大きくなっている。平均すると1件あたり約1,150万円だ。

結論から言う。本物の警察官が、電話やメッセージアプリ、ビデオ通話で「逮捕状が出ている」と告げたり、逮捕状の画像を送ったり、送金や金地金の受け渡しを求めたりすることは、絶対にない。警察を名乗る電話でお金の話や「誰にも言うな」という指示が出た時点で、それは詐欺だ。いったん電話を切り、自分で調べた正規の番号にかけ直す。それだけで被害のほぼすべてを防げる。

ニセ警察詐欺とは何か

ニセ警察詐欺は、犯人が警察官や検察官などを名乗って被害者を信じ込ませ、現金や金地金をだまし取る特殊詐欺の一種だ。警察庁の定義では、電話やSNSなどを通じて対面することなく信用させ、指定口座への振り込みなどの方法で現金等をだまし取る犯罪が「特殊詐欺」と呼ばれている。

この手口が厄介なのは、「警察」という権威そのものを武器にしている点だ。知らない業者からの電話なら警戒できる人でも、「警察です」と言われると一瞬「何かあったのか」と身構えてしまう。犯人はその動揺につけ込む。しかも手口は年々巧妙になっている。制服姿の犯人がビデオ通話で取り調べの真似をしたり、警視庁や静岡県警、兵庫県警などの公式サイトにそっくりな偽サイトを作って、被害者に偽の逮捕状を表示させたりする事例まで確認されている。

さらに悪質なのが、2026年に警察庁が注意喚起した2つの特異な手口だ。1つは「身の潔白を証明するには資産の提出が必要だ」として、振込ではなく金地金(金塊・インゴット)を直接渡させる手口。金地金をだまし取られた特殊詐欺173件・被害額60.2億円のうち、163件・58.2億円がニセ警察詐欺だった。なぜ金なのか。振込は記録が残り途中で止められるが、金は持ち運びやすく、渡った後の追跡が難しいからだ。もう1つは「嫌疑を晴らすための身体的特徴の確認」などと称して、裸になるよう要求したり、入浴中やトイレの時間も含めて常時ビデオ通話をつながせたりする手口で、2027年中の発生分として警察庁に報告があったものだけで247件に上る。金銭以外の深刻な被害が出ている点で、他の特殊詐欺とは性質が違う。

犯人の手口を5つのステップで解説

ステップ1:不安の植え付け。「あなたの口座が犯罪に使われています」「あなたに逮捕状が出ています」「捜査対象になっています」。電話の冒頭で、強い不安を与える言葉を投げかける。ここで相手の思考力を奪うのが狙いだ。

ステップ2:信用の演出。警察手帳のようなものを見せる、制服姿でビデオ通話に出る、偽サイトに誘導して自分の名前入りの「逮捕状」を表示させる。画面越しの「証拠」はすべて偽物だが、動揺している状態では見抜きにくい。

ステップ3:隔離。「捜査中のため、家族にも誰にも話してはいけない」「電話を切ったら逮捕する」。被害者を孤立させ、冷静な第三者に相談させない。これが出たら詐欺確定だと思っていい。本物の捜査で「誰にも言うな」と脅すことはない。

ステップ4:要求。「身の潔白を証明するため」として、指定口座への振込、金地金の購入・受け渡し、キャッシュカードの提出などを求める。最近は「保全」「資産の確認」といった、もっともらしい言葉で包むケースが多い。

ステップ5:逃走。金を受け取ったら連絡は途絶える。かけ直してもつながらない。ビデオ通話の相手は最初から犯人グループの一員だった。

本物の警察とニセ警察の見分け方:比較表

迷ったときに見返してほしい。一目で分かる違いをまとめた:

ニセ警察詐欺の特徴 本物の警察の対応
電話・メッセージアプリ・ビデオ通話で「逮捕状が出ている」と告げる 逮捕状の執行は対面で行う。電話やビデオ通話で逮捕状を示すことはない
警察手帳や逮捕状の「画像」を送ってくる 画像で警察手帳や逮捕状を送ることはない
「身の潔白を証明するため」と送金や金地金の受け渡しを求める 電話で金銭の振込や資産の提出を求めることは絶対にない
「誰にも言うな」「切ったら逮捕する」と脅す 脅しで通話を続けさせたり、相談を禁じたりしない
偽の警察署サイトに誘導し、番号入力で「逮捕状」を表示させる ウェブサイト上で逮捕状の確認手続きなど存在しない
国際電話(+から始まる番号)や非通知でかけてくることが多い 公式な連絡は所属と氏名を名乗り、かけ直し可能な番号を案内する

私の率直な意見を言わせてもらえば、この表の左側の項目に1つでも当てはまったら、そこで判断は終わりだ。「でも、制服を着ていたし…」「逮捕状に自分の名前が…」と悩む必要はない。電話やビデオ通話で始まった話の中で、捜査を理由に何かを差し出すよう求められた時点で切っていい。それが正解だ。

すぐに使えるチェックリスト:電話を切るべき5つのサイン

  • 「警察です」と名乗られた。それ自体は問題ないが、ここから先の展開に注意。
  • 「逮捕状」「捜査対象」「共犯」という言葉が出た。不安をあおる言葉は詐欺の燃料だ。
  • お金・金・キャッシュカードの話が出た。本物の警察が電話で金銭を求めることはない。これが出た時点で詐欺確定。
  • 「誰にも言わないで」「切ったら逮捕」と言われた。隔離と脅しは典型的な手口。
  • ビデオ通話やメッセージアプリに誘導された。警察庁も明言しているが、本物の警察官がメッセージアプリで連絡したり、個人のスマホに突然ビデオ電話をかけたりすることはない。

家族と共有するなら、手口の細部を全部覚えるより、この5つだけ伝えた方がいい。特に「お金の話が出たら何もせず家族に電話する」「警察を名乗られてもいったん切る」の2つは、高齢の親にも覚えてもらいやすいシンプルなルールだ。なお、電話を使った詐欺全般の仕組みについては、音声フィッシング(ビッシング)とは何かも参考になる。

本物の警察かどうか確かめる手順

  1. いったん電話を切る。相手が何を言おうと、まず切る。「切ったら逮捕」は脅し文句で、切ったから逮捕されることはない。
  2. 相手の言う番号には絶対にかけ直さない。教えてもらった番号は犯人の仲間につながる可能性がある。
  3. 自分で正規の連絡先を調べる。警察相談専用電話の「#9110」にかけるか、最寄りの警察署の番号を自分で調べてかけ直す。本当に捜査上の用件なら、こちらからの確認で必ず成立する。
  4. 金銭の要求には一切応じない。「保全」「証明」「手続き」の名目でも、電話でお金を動かす理由は存在しない。
  5. 家族や信頼できる人にすぐ相談する。「誰にも言うな」と言われたこと自体を、まず誰かに話す。孤立させられないことが最大の防御だ。

銀行員を名乗る電話で口座情報を聞き出そうとする手口も、構造はまったく同じだ。銀行員を装う電話詐欺の見分け方とあわせて読むと、パターンが見えてくるはずだ。

すでにお金を送ってしまった・個人情報を渡してしまったら

恥ずかしがる必要はない。被害者の9割以上が「自分は騙されない」と思っていたという調査もある。相手はプロだ。ただし、時間との勝負になるので、気づいたらすぐ動こう:

  • 振込をしてしまった場合:すぐに振込先の金融機関と自分の取引銀行に連絡し、組戻し(振込の取り消し)を依頼する。早ければ早いほど、犯人が引き出す前に止められる可能性がある。
  • 金地金や現金を渡してしまった場合:110番または最寄りの警察署にすぐ通報する。受け渡しの場所・時間・相手の特徴をできるだけ詳しく伝える。
  • キャッシュカードや口座情報を渡した場合:銀行に連絡して口座の利用停止・カードの再発行を依頼する。不審な引き出しがないか明細を確認する。
  • ビデオ通話で裸の画像などを要求された場合:一人で抱え込まず、警察(#9110)に相談する。相談しにくい内容だからこそ、発覚が遅れて被害が広がる構造がある。警察はこうした相談にも対応している。
  • 証拠を残す:着信履歴、メッセージ、偽サイトのURL、振込明細はすべて保存・スクリーンショットしておく。捜査の手がかりになる。

高齢の家族が被害に遭った場合、責めるのは逆効果だ。「孫」を装う手口など、家族の情につけ込む詐欺は他にもある。孫を装うオレオレ詐欺についての解説も参考に、家族で「お金の話が出たら必ず相談する」というルールを決めておこう。

相談・通報先

  • 警察相談専用電話「#9110」:「これって詐欺かも」と迷ったときの相談先。事件性があれば最寄りの警察署につないでくれる。
  • 110番・最寄りの警察署:すでにお金を送ってしまったなど、被害が発生している場合はこちらへ。
  • 消費者ホットライン「188」:消費生活センターにつながる全国共通番号。契約トラブルや不審な請求の相談ができる。
  • 家族への共有:手口を知っているだけで防げる被害は多い。今日この記事を読んだら、実家の親にも「警察を名乗る電話が来たらいったん切って#9110」と伝えてほしい。

Sources

  1. 日本時事新聞、「1〜8月の特殊詐欺、被害額は2360億円で前年同期より588億円多い」(2026年10月3日、警察庁「令和8年8月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」の報道) — https://jpjj.jp/articles/special-fraud-statistics-august-2026/
  2. exciteニュース(オリコン)、「警察庁、8月末の『特殊詐欺』認知件数&被害額の最新データ公表」(2026年10月2日) — http://www.excite.co.jp/news/article/oricon_2483972/
  3. exciteニュース(PR TIMES)、「城島茂特別防犯支援官が『港区地域安全のつどい』に登壇 『ニセ警察詐欺』への警戒と『警察庁推奨アプリ』の活用を呼びかけ」(2026年10月8日、警察庁SOS47) — http://www.excite.co.jp/news/article/prtimes_2026-10-08-46264-285/
  4. Haru、「件数は減ったのに被害額が増えた|ニセ警察詐欺で何が起きている?」(警察庁の令和8年上半期統計・SOS47注意喚起の分析) — https://note.com/haru_tech_note/n/n34f87724158b
  5. メディアックパソコンスクール橋本教室、「日本の最近の特殊詐欺について その1」(警察庁の注意喚起を引用) — https://mediac-hashimoto.com/blog/detail/20261016135325/
  6. Daily Picks、「特殊詐欺の被害額が8月末で2,360億円、最大の手口はSNS型投資詐欺の937億円」(警察庁公表資料の分析) — https://daily-picks.life/trend/%E7%89%B9%E6%AE%8A%E8%A9%90%E6%AC%BA%E8%A2%AB%E5%AE%B3%E9%A1%8D2360%E5%84%84%E5%86%86%E3%81%A8%E6%89%8B%E5%8F%A3%E5%88%A5%E5%86%85%E8%A8%BA/

最終更新:2026年10月

本記事は教育目的の情報提供であり、金融・法律に関する助言ではありません。

Related Guides

Written by WarnScams

WarnScams is an independent scam-awareness project. We research official alerts from the FTC, FBI IC3, SEC and Pakistan's NCCIA/FIA and turn them into plain-language guides that help readers spot scams, protect their money and report fraud to the right authority.

More about us

1 thought on “ニセ警察詐欺に注意:偽の警察官を名乗る電話の手口と見分け方”

  1. Pingback: Grandparent Scams: "It's Me, Your Grandson — I Need Bail Money" - Warn Scams

Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *

Scroll to Top